司法書士と行政書士の違いは?難易度や年収などの違いも解説
法律系の国家資格である司法書士と行政書士は、独立も目指せる資格として人気があります。
しかし、どちらの資格を取得するのが将来的に有利なのか、どちらが難しく、業務内容にはどんな違いがあるのか疑問に思っていませんか?
そこで本記事では、司法書士と行政書士の違いについて、合格率や業務内容などさまざまな観点から解説します。
ぞれぞれのメリットや、ダブルライセンスを目指すことが可能なのかも紹介するので、これから取得を目指す方は参考にしてください。
目次
行政書士と司法書士の違いをわかりやすく言うと〇〇
行政書士と司法書士の大きな違いは、担当する業務内容です。
行政書士は官公庁への許認可申請や権利関係の書類作成などを行うのに対し、司法書士は不動産登記や法人登記などの登記申請などを行います。
いずれも法律の専門知識が必要で、それぞれに独占業務がありますが、行政書士よりも司法書士の方がより範囲が広いのが特徴です。
ただし、「司法書士は行政書士の上位互換で優れている」というわけではありません。
それぞれが行う業務内容に違いがあり、一概に比較が難しいためです。
難易度の観点では司法書士の方が難しいですが、あくまでもそれぞれの仕事内容に応じてどちらを取得するかを選択するのが重要です。
行政書士と司法書士の試験の難易度の違い
行政書士と司法書士の試験の難易度の違いを、以下4つの点から解説します。
- 合格率の違い
- 必要な勉強時間の違い
- 試験形式の違い
- 試験範囲や対象科目、分野の違い
司法書士の方が試験範囲が広く難易度が高めですが、得意不得意もあるので、違いを押さえたうえで学習に臨みましょう。
合格率の違い
近年における、行政書士試験と司法書士試験の合格率推移は以下の通りです。
試験 | 行政書士試験 | 司法書士試験 |
---|---|---|
令和6年度 | 令和7年1月に発表 | 5.3% |
令和5年度 | 13.98% | 5.2% |
令和4年度 | 12.13% | 5.2% |
令和3年度 | 11.18% | 5.1% |
令和2年度 | 10.72% | 5.2% |
出典元:法務省司法書士試験
行政書士試験の合格率は12%前後で、司法書士試験は5%前後です。
難易度は司法書士試験の方が高い点を押さえたうえで学習を進めてください。
比べて見ると行政書士試験が簡単かのような印象を受けるかもしれませんが、あくまで司法書士試験に比べてです。
合格率12%は決して高い数値ではないため、油断せずに取り組みましょう。
なお、司法書士試験は筆記試験合格後に口述試験があります。
面接試験なので苦手な方もいるかもしれませんが、合格率はほぼ100%なので、難易度にはあまり影響を与えないと考えてよいでしょう。
必要な勉強時間の違い
行政書士と司法書士の、資格試験突破に必要とされる勉強時間の目安は以下の通りです。
試験 | 行政書士試験 | 司法書士試験 |
---|---|---|
勉強時間の目安 | 800時間 | 3,000時間 |
あくまで目安ではありますが、司法書士試験は行政書士試験の4倍近い学習時間の確保が必要となります。
一日5時間勉強した場合、行政書士は約半年、司法書士は2年弱かかるので参考にしてください。
どちらの試験も長期の学習が必要になるため、通信講座や予備校などを活用して効率よく学習を進めることが重要です。
特に司法書士は1年半~2年程度学習を続ける必要があるため、モチベーション維持の観点からも独学での取得が困難となります。
試験形式の違い
行政書士試験と司法書士試験の形式は以下の通りです。
試験 | 行政書士試験 | 司法書士試験 |
---|---|---|
受験資格 | なし | なし |
試験形式 | 択一式+記述式 | ・筆記試験(午前):択一式 ・筆記試験(午後):択一式+記述式 ・筆記合格後に口述試験 |
試験時間 | 3時間 | ・筆記試験(午前):2時間 ・筆記試験(午後):3時間 ・口述試験:10分~15分 |
どちらも受験資格は無く、司法書士試験は筆記試験合格者を対象に口述試験が行われます。
試験の形式としては行政書士試験は3時間の試験だけで終了するため、集中力を保ちやすいはずです。
司法書士試験は長丁場になるため、通信講座や予備校などで開催される模擬試験を受けて環境に慣れておくことも重要です。
試験範囲や対象科目、分野の違い
行政書士試験と司法書士試験における、試験範囲や科目について比較すると以下の通りです。
試験 | 行政書士試験 | 司法書士試験 |
---|---|---|
試験範囲・科目 | 民法 行政法 憲法 基礎法学 商法/会社法 一般知識(基礎知識) |
・午前試験(択一) 憲法 民法 刑法 商法/会社法 ・午後試験(択一) 民事訴訟法 民事執行法 民事保全法 司法書士法 供託法 不動産登記法 商業登記法 ・午後試験(記述) 不動産登記法 商業登記法 |
試験範囲からも、司法書士試験の範囲が膨大であることが分かります。
行政書士試験は基礎知識とよばれる問題が出題され、政治経済や情報通信・個人情報保護などについての問題が出題されるため、法令以外にも別途対策が必要です。
また、司法書士試験における記述問題は、登記簿などの参考資料をもとに実際に登記書類を作成します。
自己採点が難しいことから、司法書士試験が独学で学習しにくい理由のひとつとなっています。
択一式試験の難易度も高いため、司法書士試験については効率よく学習できる通信講座の利用がおすすめです。
行政書士と司法書士の業務内容の違いは?相続関連は司法書士!
行政書士と司法書士の業務内容の違いについて解説します。
業務内容の違いは、両者の独占業務の違いを押さえることが重要です。
資格 | 行政書士 | 司法書士 |
---|---|---|
独占業務 |
・官公署に提出する書類の作成 ・権利義務に関する書類の作成 ・事実証明に関する書類の作成 |
・登記または供託に関する手続きの代理 ・法務局に提出する書類作成 ・裁判所や検察庁に提出する書類作成 ・法務局の長に対する登記または供託に関する審査請求の手続きの代理 ・上記の相談対応 |
実務に関していえば、行政書士は申請書類の作成などを手広く行うイメージです。
一方で、司法書士は不動産登記など、不動産関連の業務が多いのが特徴です。
他にも相続関連だと、遺言書の作成は行政書士も司法書士も行えます。
しかし、相続放棄申述書などの裁判所に提出する書類の作成は司法書士が行い、遺産分割協議書や官公庁へ提出する許認可手続きの作成は行政書士、といった具合に業務が分かれています。
登記ができるのは司法書士の大きな強みなので、相続関連業務に携わりたい場合は司法書士を選びましょう。
とはいえ、どちらが優れているといったことは無く、連携して業務に取り組むことになります。
業務内容の違いを押さえて、どちらの資格を取得するかを検討しましょう。
行政書士と司法書士はどっちが稼げる?年収の違い
行政書士と司法書士はどっちが稼げるのか、年収や将来性で取得する資格を選びたい方に向けて解説します。
両者の平均年収は以下の通りです。
資格 | 行政書士 | 司法書士 |
---|---|---|
平均年収 | 551.4万円 | 1121.7万円 |
就業者数 | 309,100人 | 25,560人 |
出典元:行政書士 職業詳細 | job tag
平均年収では司法書士の方が、行政書士よりも倍以上高くなっています。
難易度が高い分、司法書士資格取得者の数は少ないため希少性が高く、一人当たりがもらう賃金も多くなっています。
将来的に独立して稼ぎたいという方は、司法書士を目指すのがよいでしょう。
行政書士を目指すメリットや注意点
行政書士を目指すメリットと注意点は、主に以下の3点です。
- 難易度が比較的低いため早く資格が取得できる
- ダブルライセンスを狙うならステップアップとして最適
- 司法書士と比べてステータスは劣ると思われがち
司法書士よりも合格のハードルは低い点がメリットですが、押さえておきたいポイントもあるので確認してみてください。
難易度が比較的低いため早く資格が取得できる
行政書士は司法書士と比べると難易度が比較的低いため、早めに資格を取得しやすいのが利点です。
必要な学習時間も800時間と司法書士試験の4分の1程度が目安なので、学習時間の確保が難しい方にも向いています。
就職や転職を有利にするために資格取得を目指す方や早期に独立を検討している方は、早く資格が取得できる行政書士がおすすめです。
ダブルライセンスを狙うならステップアップとして最適
司法書士と行政書士は、試験範囲において以下の3つの科目が重複しており、ダブルライセンスを目指す方もいます。
- 憲法
- 民法
- 商法/会社法
資格を取得する順序に決まりはありませんが、司法書士試験の方が難易度が高いため、まずは行政書士の取得から目指すとモチベーションを維持しやすくなるでしょう。
ダブルライセンスはできる仕事の幅が広がるため、将来的な独立の際にも有利にはたらくはずです。
司法書士と比べてステータスは劣ると思われがち
法律系の資格は一般的に、知名度や難易度の差から、「弁護士▶︎司法書士▶︎行政書士▶︎宅建士などのその他資格」という序列で見られることがあります。
業務内容が異なるため実際は序列などはありませんが、行政書士一本でずっとやっていくとなると、司法書士よりもステータスで劣っているという目に耐える強い気持ちは必要です。
あまり気にしないという方であれば、必要な学習時間が少なく済む行政書士の資格取得を検討しましょう。
司法書士を目指すメリット
司法書士を目指すメリットは以下の3点です。
- 相続や不動産登記など、独占業務の範囲が広い
- 独立開業がしやすいため高年収が期待できる
- 税理士や弁護士など、他の士業と連携がしやすい
注意点としては難易度が行政書士に比べて高い点です。
独学での学習が困難なため、通信教育や予備校などを活用して勉強するのをおすすめします。
相続や不動産登記など、独占業務の範囲が広い
司法書士は相続や不動産登記など、行政書士よりも独占業務の範囲が広いのが特徴です。
独占業務はその資格を持っていなければできない業務のことで、司法書士の場合は以下が該当します。
- 登記または供託に関する手続きの代理
- 法務局に提出する書類作成
- 裁判所や検察庁に提出する書類作成
- 法務局の長に対する登記または供託に関する審査請求の手続きの代理
- 上記に関する相談対応
独占業務があると司法書士以外には依頼できないため、その分仕事を取りやすくなります。
独立した際に事業を継続しやすいため、安定性を担保したい方は司法書士の取得はおすすめです。
独立開業がしやすいため高年収が期待できる
司法書士の平均年収は1,100万円ほど、士業の中でも購入年収が期待できます。
また、あくまでも平均年収なので、独立して手広く案件を獲得できれば収入は青天井です。
独立には経営能力や営業力なども必要なため、司法書士資格さえ取得すれば誰でも高年収が保証されるわけではありませんが、司法書士事務所などに就職する場合も高年収は期待できるでしょう。
税理士や弁護士など、他の士業と連携がしやすい
司法書士は、税理士や弁護士など他の士業と連携がしやすいのも利点です。
たとえば、遺産相続で不動産関連の相続が発生した場合は、納める税金について税理士と相談しながら進めることもあります。
他の士業と連携しやすいということは、仕事を獲得しやすいということなので、しっかりと稼ぎたいという方にも司法書士はおすすめです。
また、難度は高いものの、司法書士と弁護士資格や税理士資格のダブルライセンスを取得できれば業務の幅が大きく広がるため、次のキャリアパスとして考えてみてください。
行政書士と司法書士のダブルライセンスを狙う人も多い
行政書士と司法書士のダブルライセンスを狙う人は多くいます。
理由は以下の2点です。
- 試験の範囲が一部重複している
- 業務が一気通貫で完結できるようになる
行政書士と司法書士の試験範囲は似ており、行政書士から司法書士へステップアップしやすい特徴があります。
司法書士の学習は長期に渡りがちなので、一旦行政書士を取得して次に移ることでモチベーション低下を免れやすくなるでしょう。
また、ダブルライセンスによって司法書士と行政書士それぞれができないことをカバーできるようになります。
たとえば、遺産相続の際、遺産分割協議書の作成は行政書士でも行えますが、相続登記は司法書士でなければできません。
逆に、農地転用の場合は所有権移転の登記は司法書士ができますが、農地転用許可申請は行政書士が行います。
このように、どちらか一方の資格ではできないことが、ダブルライセンスによって一人で完結できるようになるのがメリットです。
ダブルライセンスを検討している方はぜひ参考にしてください。
行政書士と司法書士試験に関するよくある疑問
行政書士にできて司法書士にできないことはある?
以下のような許認可申請は、司法書士にはできず行政書士が行う独占業務となっています。
- 飲食店営業
- 酒類販売
- 旅行業
- 建設業
- 旅館営業
- 宅地建物取引業の免許など
需要の大きい許認可申請が多数あるため、行政書士資格だけでも独立は十分に可能です。
ダブルライセンスがあると単体の資格よりも年収は上がる?
ダブルライセンスによって単体の場合よりも年収が上がる可能性はあります。
資格を取得したから年収が上がるというよりは、できる業務が増えてその分費用に上乗せしたり、競合との差別化につながって仕事の数が増えたりといった恩恵が期待できるためです。
どちらも難関資格ではあるので、順序は難易度だけでなく学習時間が確保できるかなども加味して決めましょう。
弁護士、税理士、社労士との違いは?
弁護士、税理士、社労士との、難易度や平均年収の違いなどを解説します。
資格 | 行政書士 | 司法書士 | 弁護士 | 税理士 | 社労士 |
---|---|---|---|---|---|
合格率 | 12%前後 | 5%前後 | 40% | 19%前後 | 6%前後 |
勉強時間目安 | 800時間 | 3,000時間 | 8,000時間 | 4,000時間 | 1,000時間 |
受験資格 | 無し | 無し | 法科大学院修了または予備試験の合格 | 学識、資格、職歴の要件を満たす | 学歴や職歴の要件を満たす |
取得要件 | 筆記試験に合格 | 筆記試験、口述試験に合格 | 筆記試験に合格 | 必須2科目を含む全11科目から5科目に合格 | 筆記試験に合格 |
平均年収 | 551.4万円 | 1121.7万円 | 1121.7万円 | 746.7万円 | 947.6万円 |
主な業務内容 | 官公署に提出する書類の作成など | ・登記や供託に関する手続き代理 ・法務局や裁判所などへの書類手続き作成と提出など | ・刑事/民事裁判における弁護 ・法律に関する相談対応など | ・税務書類作成 ・税務代理 ・税務相談など | 労働や社会保険に関する一部書類の作成と申請など |
いずれも法律に関わる資格で、独立を目指せる人気の資格となっています。
どの資格が絶対的に優れているということは無いため、興味のある分野や自身のキャリアパス、挑戦できそうな難易度などで選びましょう。